会いたい

春になったらあれもしたいし、これもしたいな、といろいろ思っていた。

わたしは自分では今忙しいというか、時間がないと思っているけど、

実際わたしのしていることというと、椅子に座って、ああどうしよう、

横になって、ああどうしよう、と思っているだけで、なにもしてない。


おばあちゃんちに行きたい、とそれだけは絶対、と何度か電話をかけたけど、

だれも出なくて、電話がなっているはずのおばあちゃんちを、

わたしはすぐに思い起こすことができるから、思って、

玄関に置いてある電話機と、すぐ横にあるソファの柄と、

12時と15時には浪漫飛行が鳴る壁時計と、

居間にある机。テレビのそばにはチラシで作ったゴミ入れがたくさんあって、

テレビの上には(アナログ。なんでかまだ使えてる)、

いとこの子どものあやちゃんとるいくんの写真があって、

あやちゃんはもう中学生になると言ってたことを思い出して、

そっか、中学生か、とまた思う。


電話を切って、またかける。

さっきかけたばっかりやから出るわけがないけどかけて、やっぱり出なかった。


歳の割には元気だったおじいちゃんが、急に歳をとって、

耳も遠くなって、目も見えにくくなったから車にも乗らなくなったみたい。

そうや、この間、電話したとき、

わたしが「おじいちゃん!」と何度言っても、

「もしもし、もしもし、なにも言いよらんがー」とおばあちゃんにかわったのだった。



最後に行ったのは1年くらい前。

駅まで送ってもらうときに、運転するおじいちゃんの写真を撮った。

この間おねえちゃんにその写真を見せたら、それ貴重やん、って言ってた。


その、去年の帰る前の昼のこと。

おばあちゃんは一升もお米を炊いて、ちらし寿司を作ってくれた。

そのとき、テレビではのど自慢をしていて、

なにを歌ってたかなー。ひょっこりひょうたん島の歌とか、いろいろ歌っていて、

わたしは、おばあちゃんが混ぜるのを横からうちわで煽いでいて、

おじいちゃんもそばにいた。おじいちゃんは、適当に歌ってた。


わたしはなんでか急に泣きそうになって、トイレに行って泣いたんやった。

伯母ちゃん(そのとき仕事でいなかった)がきれいにそうじをしている、

窓からたくさん光が入ってくる明るいトイレで、しくしく泣いた。なんでかはわからない。


トイレから戻ると、新婚さんいらっしゃいが始まっていて、

おじいちゃんは、ちほ、おねえちゃんのあんさんに誰か紹介してもらえー、

といつも決まって言うことを言って、わたしは、いい、と言った。

おばあちゃんは、ちほはええんじゃ、と言ってた。(気を使わしてるね)

テレビでは、新婚さんが、こと細かく初夜の話をしていて、

おばあちゃんは、なにをいいよるんじゃ、と笑いながら顔に小さい手を当てて言って、

おじいちゃんは、テレビじゃけぇおもしろく言わんといけんのんじゃ、と言ってた。


ちらし寿司には、すっぱいスズキが入っていて、それがおいしかった。

これ、おいしいなー、と言うと、わたしのお皿に載せすぎなほど載せてくれる。

もう一泊してきゃーええのに。ここにあるお菓子も全部持ってったらええ。

新幹線で帰るのに持てんかー、と言う。送ろうか、と言う。



おばあちゃんちに行きたいな。

おばあちゃんにもおじいちゃんにもおばちゃんにもおじちゃんにも会いたい。

ついでにおかあさんにも会いたい。