96歳

おととい、仕事を終えて、マンションのエレベーターホールに入って、

いつも通り郵便受けの方へ行くと、訃報を知らせる紙が目に入った。

黒くふちどられた紙を見ると、いつも少し息苦しくなる。


名前を見ると、あ、あのおじいちゃん? と思った。

下の名前ははじめて知って、でもなんて読むのかわからなくて、

どうしてもその名前と、あのひととが繋がらなくて、ちゃうかな、と思った。

ちゃう、と思ったのは、ちゃう、と思いたかったから。

何号室かを見ると、間違いなく、あのおじいちゃんだった。



半年か、もっと前、マンションの下に救急車がとまっていて、

そのおじいちゃんが運ばれていった。

わたしは、勝手に、もしかして、と思って、はらはらしていた。

でも、そのあとすぐに、杖をついて歩いている姿を見て、また勝手に、ほっとしていた。


最後に会ったのは二ヶ月くらい前かな。


「あなたはいつも元気そう。肌がつやつやしてる。いいね。元気でいい」と会うたび言われた。

そんなことないのに。

わたしはいつも元気なわけではないし、肌だってがさがさしているのに。

でも、おじいちゃんにそう言われると、少し元気になってわたしは歩いた。


そのおじいちゃんとの思い出が濃いのは、小学校低学年の頃。

プレロットにある椅子で、おじいちゃんは老眼鏡をかけて本を読んでいて、

わたしはよく、友だちとごむだんでチョンパをして遊んでいた。

にこにこと話しかけてくれるから、わたしはなついて、

おじいちゃんにぶらさがって遊んだりしていたような気がする。



おじいちゃんにもう廊下ですれ違うこともないし、駅でばったりも会えへん。

さみしい。