はるとくん
おねえちゃんが次男を出産した。5月14日が誕生日。
「晴れるに桜井翔の翔で、はるとっていうねん。いいやろ」
と、いつものおねえちゃんの声で言った。
はるくんが産まれたのは、偶然にもわたしが産まれた病院と一緒で、
健やかに成長しすぎている今のわたしからは考えられないけれど、
わたしはひと月早く産まれた未熟児だった。
それで残りのひと月、ひとりで入院していたらしい。
わたしは、「もしかしたら何か思い出すかも」と、かすかな期待をもって
病院に行ったのだけど、何も思い出さなかった。
おねえちゃんは、「なんでうちが産んだのに、またうちに似てないん」
と、パパ似だと言って拗ねていたけど、
わたしにはパパにも似ているかよくわからなかった。
病院は薄暗くて、すっぱい匂いがした。
いつやったか、「わたしこの病院で産まれてん」と言ったら、
「おじいちゃんがこの病院で死んだわ」と言った人がいた。
病院ってすごいところや。いつもそわそわしてしまう。
わたしはその日、おねえちゃんがいつものおねえちゃんなことに安心して帰った。