いやしのパン
職場でパンをもらった。
だいたいいつも月曜日にもらえる気がする。
このパンを買ってきてくれている人がだれなのか、実はわたしは知らない。
わたしが働いているのは大きな工場だから人がたくさんいるけど、
直接関わることがある人って十人にも満たない。その人たち以外の人だ。
それにわたしは夕方からなので、行ったらもうある。
同じ部の人はそのパンを「いやしのパン」と呼ぶ。
いやしのパンを、ばんざいして、それから、手を合わせて食べる。
だれなのか聞かなきゃなぁ。そこがわたしの悪いところだ。
そして、そのパンが入っている袋がとても懐かしい。
高校を卒業してすぐ働きだしたお店のそばにあったパン屋の袋。
はかり売りのミニクロワッサンとか、おいものなんやらスティックとか、よくもらって食べた。
えいちさんとあいさんという先輩がいて、
その袋をみるたびにふたりのことを思い出す。
夜遅くまで居残りをしていたら、電話の応対がままならないわたしに、
変な客を装っていじわるな電話をかけてきたり、
びーびー泣いてばかりいたわたしにやさしくしてくれたり、
恋人とのデートにお邪魔をして一緒に初日の出を見たり、
おいしいものもたくさんごちそうになった。
あの頃食べたものは、わたしのおなかのぜい肉の一部になっているんやろうか。
そうやったらいいなぁと思う。