雨の名前

今日雨がすごかったみたい。

わたしはひどい雨にはあわなかった。


朝からのアルバイトを終えて、家に帰ってごはんを食べて、夕方からのアルバイトに行くと、

「雨、止んでた? 雨、降ってなかった?」と聞かれた。


わたしは、あ、なんか雲が黒いなー、雨、降りそうやなー、

傘持っていかな、でも、傘ない。骨折れたやつしかない。

持ってるの全部バイト先にある。

と、玄関にあったいちばんましなビニール傘を持ってきたところだった。



「雨、降りそうな感じでした」

と言うと、

「今日雨やってんでー。知らんかった?」と言う。

あ、そうなんや、と思う。

働いてる本屋も工場も外が見えないからわからないのだ。

そういえば、来るときにはもう、ほんのちょっとだけ雨が降っていた。

ほんとうにほんのちょっとだけ。

わたしはそれを伝えたくて、でも少しぼーっともしていて、

あまりなにも考えずに、

「あ、30歩歩いたら一滴あたるくらいは降ってました」と言ったら、

なにそれーと笑っていた。

ほんとうになにそれだ。ずいぶん適当なことを言ってしまった。




昨日、長田弘さんの「すべてきみに宛てた手紙」を読んでいて、

そこには、雨の名前がたくさん載っていた。

秋雨、長雨、愁雨、霧雨、小糠雨、りん雨、宿雨、土砂降り、横なぐり。


こうゆうの、わたしは好きで、こんな名前がたくさん載っている本か辞書かなにかが欲しい。


きっと昨日この本を読んだから、だから、

わたしはなんとなく伝えたくなった。ほんのちょっとさ加減を。



『ことばのすることというのは、結局のところ、名付けるということです』とある。

そうか、と思う。

思っていることを名付けて外に出すことは、ちょうむずかしい。

ほんとうにむずかしい。


普段、わたしは、自分の頭のわるさや、器用じゃないところなんかも、

全部味方にしちゃえってこっそり思っているけど、

あまりにもひどいと、まいってくる。

でも、やっぱり、

ぱっと出来るより、いつか出来るはずと思っている方が、

わたしには合っているのかもしれないなとも思う。そもそもそれしかできない。



それと、最後の方に、

『生まれた子どもがこの世で最初にもらうのは、名。』と書いてあった。

そうか、名か、と思って、お母さんを思い出したよ。