焼きおにぎり

暮しの手帖59号(今でているやつ)に、焼きおにぎりの特集が載っている。

それを見て、

「ああ、そうやった、わたしは焼きおにぎりが食べたかったんやった」と思いだした。



6月の初め、岡山のおばあちゃんちに向かう新幹線の中で読んでいた「バナナは皮を食う」。

その中の、サトウ・ハチローさんのエッセイがものすごくよくって、

何度も読んだのだった。


『おむすびの中で、ボクが一番すきなのは、やきむすびです。冬の夜中など、

自分ひとり起きていて仕事をつづけている時など、よく台所へでかけて行って、

自分でおむすびを握って来ます。お皿の上にのせた、三つ(ほんとうは五つかな)の

おむすびを、仕事部屋へ運んで来て落ちついた時のうれしさ。

 火鉢に炭をつぎ、カナアミをかけ、ほどよくカナアミがやけた時に、そのおむすび

をのせます。ごはんのツブツブがやけて、少しこげて、ちいさいちいさい音をたてはじめます

(ああ、遠い遠い日の、エンニチで聞いた、ハジケ豆の音のピアニシモよ)。

 やけたおむすびに、おしたじをつけて、又アミにのせます。いまは亡きおふくろや

おばァさんやおばさんや、ボクにおかしな雉子のトリカタを教えてくれたおじさんなどの

顔が浮かびます。

 ボクは、やきむすびをひとつ、ふたつとたべながら、ウタを書きはじめます。

ボクにとってはそれが一番たのしい夜中です。』





すきな食べものはなに?と聞かれても、わたしはすんなりと答えることは出来ない。

お肉も、魚も、いくらも、鮭フレークも大好きだし、なすの一本漬けも、味噌汁も、

カレーも、納豆も、いちじくも、すいかも、おくらも、白いごはんも。なんだってすきだ。

でも、テンションの上がる食べものというと、わたしも、断然、焼きおにぎり。

中学生の頃、お弁当箱をあけると焼きおにぎりだったときのうれしさったらなかった。


さっきおねえちゃんに電話をして、お母さんの作った焼きおにぎりと、すき焼き煮について、

ふたりで語り合った。

おねえちゃんは、

「朝起きた時にテーブルの上に焼きおにぎりがあったときのうれしさったらなかった」

と言った。




自分で焼きおにぎりを作ってもいまいちうまくいかない。

暮しの手帖に書いていた「下の手だけ力を加え、上の手は形を整える」で握って、

少し乾燥させてから焼くと、ぼろぼろにならずには焼けた。まあまあおいしい。

今度はお弁当箱に詰めてみようと思う。